“美しい花”といって貴方はどの花を思い浮かべますか?どの花もそれぞれの個性を持った美しさを兼ね備え、人々を魅了し続ける花。今回はそんな“美しい花”の中でも、品種改良されウエディングなどのおめでたいシーンに人気が出てきた花。昔から美しさを表現する形容詞として使われてきた花などその花にまつわるお話や花言葉と共にご紹介します。美しい方に是非プレゼントして頂きたい花が沢山ありますのでご参照ください!

雨のベールで増す美しさ【ハイドランジア】

日本の梅雨の花と言えば「紫陽花(アジサイ)」ですよね。
アジアや北アメリカに約40種類が自生していて、日本にも十数種類の固有種があります。

小さな花が幾重にも重なりまとまっている様子はボユームも満点。
最近では人気も高まり、ブーケなどにも使われるようになった美しい花です。

日本の「紫陽花」の代表的な固有種といえば「ガクアジサイ」ですが、「ハイドランジア」は日本原産のモモイロアジサイをヨーロッパで品種改良したものが大正時代に日本に逆輸入されたものです。
他にも、北アメリカ原産のアジサイを元に品種改良したものなど品種改良も盛んに行われ、固有種のアジサイよりもさらに鮮やかな色合いを持った種類のアジサイが数々生まれ、気軽に手に入るようになりました。

つまり、日本原産の品種を「アジサイ」と呼んで、品種改良された花を「西洋アジサイ」、「ハイドランジア」と呼びます。

母の日や花嫁さんのブーケ、おしゃれな花束などに使われる色とりどりの豪華な大きい花のアジサイはほとんどが「西洋アジサイ」とも言われる、「ハイドランジア」です。

ユキノシタ科の落葉樹木であるハイドランジアは、開花時期が5月~7月頃。
ひと重咲きのほか、八重咲きの種類もあります。背丈は1~2mほど。
花のように見えている部分は実はガクで、本当の花は中心に小さくある部分。
咲き始めから終わりまでに花の色が次第に変化するので「七変化」とも呼ばれています。

特に品種改良の中でも、デンマークで改良されたハイドランジアの品種は、濃いブルーや紫などカラーバリエーションにも富んでいます。

楕円型の葉っぱは明るいグリーンで先が尖っていて、葉脈がはっきりと浮き出ています。

ハイドランジアの名前の由来

改良品種とはいえ、ハイドランジアの原産地は日本です。

日本に滞在していたドイツの医師、シーボルトによって書かれた『日本の植物誌』の中には14種類のアジサイ属が新種として記載されています。

シーボルトは花序が装飾花になる品種のアジサイの学名を「ハイドランジア・オタクサ・シーボルト・エト・ズッカリーニ」と命名しました。

しかし、シーボルトが命名する前にスウェーデンの植物学者であるカール・ツンベルクによって植物学上の名前がすでに登録されていたのです。
しかも、日本で「植物の父」と言える植物学者、牧野豊太郎が自署の植物名鑑にカール・ツンベルクの学名ではなく、事実とは異なる情報を記載したことにより、一部の植物書にもシーボルトのつけた名前が学名上有効名のように誤解されてしまいました。

シーボルトがつけた「ハイドランジア・オタクサ・シーボルト・エト・ズッカリーニ」という学名のなかにある“オタクサ”は、シーボルトの思いが込められています。

シーボルトが自署の中で「日本でアジサイの事をオタクサと呼ぶ」と記していますが、当時日本で植物学者をしていた牧野豊太郎は日本国内でこう言われている事実はないとしています。

実は、シーボルトの妻の名前が「楠本滝」。通称お滝さんと呼ばれる女性でした。
“オタクサ”は“オタキサン”のことで、シーボルトは妻の名前を花の名前に忍ばせたと推測されています。
当時はシーボルトとお滝さんのロマンスを歌に詠むことも盛んに行われたようですよ。

ちなみに、日本の植物学者、牧野豊太郎も新種の笹を発見した際に、翌年亡くなった自身の妻・スエコの名をとり、「スエコ笹」と名付けました。

植物学者は奥様思いの方が多いですね。

現在、ハイドランジアの学名は「Hydrangea macrophylla」です。
ギリシャ語に由来し、ギリシャ語で“水”と“小さな器”を意味します。
「水の器」という意味は、ハイドランジアが水を好む植物であることからつけられました。

土壌コントロールで好みの花を開花させよう

ハイドランジアは土壌のPH数値によって花色を変化させます。

日本は雨が多いので、酸性土壌に傾きやすく、作物を育てているだけで土はどんどん酸性に傾いていくので、普通に植えると青い花が咲くことが多いでしょう。

しかし、あえて青色のハイドランジアを開花させたければ、酸性土壌にします。
具体的には硫安(硫酸アンモニウム)などの酸性肥料を利用して土壌のPHを下げます。

反対に赤色のハイドランジアを咲かせたい場合には、土壌をアルカリ性にする必要があります。
土に苦土石灰を混ぜるとアルカリ性になるので、その土壌に植えると赤いハイドランジアを咲かせることが出来るのです。

ハイドランジアの花言葉

アジサイ、ハイドランジアの花言葉は、花色が変わる性質から「移り気」、「浮気」のような花言葉がつけられるなど、あまり良いイメージではありません。

先程ハイドランジアの名前の箇所で登場したシーボルト。花言葉にも影響を与えています。

日本に滞在して、お滝さんという妻もいたシーボルトですが、時代の流れによって国外追放となってしまいます。妻と離れることになってしまったシーボルト。日本を離れる際にアジサイの花を持ち帰ったのです。そのようなエピソードから「辛抱強い愛情」という花言葉がついています。

他には、いくつもの花が集まって1つの毬のような花を形成しているハイドランジアの花。
「家族団らん」という花言葉もつきました。

ハイドランジアの花言葉で、地域ならではの違いを感じることも出来ます。

フランスではピンク色のハイドランジアに「元気な女性」という花言葉がつけられした。
ハイドランジアの開花時期にあたる6~7月の時期、フランスではジメジメした梅雨ではなく、からっとして過ごしやすい天気が続きます。

さらに、フランスの土壌は石灰質なので、アルカリ性の土壌が多く、赤系統の花が咲きやすいのです。

さわやかな季節に明るいピンクや赤の見事な花が咲く姿をイメージすると、「元気な女性」の花言葉も納得するでしょう。

他にも、清いイメージの白い花色のハイドランジアは「寛容」という意味です。
この意味ならウエディングで使っても気にならないですよね。

王者の風格、富貴の花【牡丹(ボタン)】

原産地は中国西北部。元は根皮を漢方薬として利用されていた牡丹ですが、盛唐期にはその美しさに人々が魅了され、他のどの花よりも愛好されるようになりました。

清時代以降、1929年までは中国の花とされていましたが、1929年以降、国花は梅と定められました。

日本には遣唐使や空海が持ち帰ったとも言われ、当初はやはり薬用として伝わりました。
しかしながら、やはり花の美しさに関心が集まり、観賞されるようになったのです。

シャクヤクと共にボタン属に分類されるボタンは、落葉低木樹です。
樹高は原種が3m、接ぎ木で作られる園芸品種は1~1.5m。

従来は種からの栽培しかできず、正に“高嶺の花”でしたが、接ぎ木する方法が考案され、急速に普及しました。

開花時期は4~6月。春から梅雨の時期にかけて、大輪の美しい花を咲かせます。
また、春と秋に2期咲きの寒牡丹という種類もあり、この種類は11~1月にも花を楽しむことが出来ます。

花弁は5~8枚あって、重弁や二段咲きなど様々な新種があります。
大きな花弁は薄い絹のようですが、手に取ると分厚くしっかりとしている花弁が特徴です。
葉は大きく、互生してつきます。

美しさの代弁者

昔から美しいものを表現する形容詞としてボタンは使われてきました。

「立てば芍薬(シャクヤク) 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」は美女の形容として使われる有名な言葉です。

美しい花として選ばれた花たちですが、それぞれの花の咲き方の特徴を女性の美しさに例えています。

牡丹は丈が低い低木樹で、沢山の枝を横張に伸ばして開花する様子から「座れば牡丹」と座っているような姿を表しています。
他にも美しいボタンは李白によって楊貴妃の美しさになぞらえ、俳句では夏の季語としても使われたりしています。

また、絵画にも多くの作品に取り入れられている他、家紋や着物の絵柄、陶芸や漆器、家具などの文様に好んで描かれてきました。雛人形の調度品にも牡丹をあしらった道具が並ぶことも多いのもボタンの美しさを万人が認めているからでしょう。

また、美しさの王様としても扱われるボタン。
「百獣の王」獅子と、「百花の王」牡丹を組み合わせた「獅子に牡丹」、「牡丹唐獅子」も生み出されました。
この組み合わせは多くの工芸や刺青の題材に使われました。

ちなみに、牡丹の名前が入った食べ物も多く見受けられます。

牡丹の花が咲く季節である春の彼岸に、神仏や先祖への供物とされた小豆餡を、牡丹の花に見立てたことから「ぼたもち」と呼ばれています。
同じ餅菓子ですが、秋には秋に咲く萩の花に見立てて「おはぎ」と呼びます。
華やかで大きいことから、大きく艶やかなエビを「ボタンエビ」と呼ぶのもこのためです。

さらに、肉食が禁じられていた時代に「獅子に牡丹」の獅子をイノシシに置き換えイノシシの肉を「牡丹肉」、イノシシが入った味噌味の鍋の事を「牡丹鍋」と呼びます。

人々の生活にかなり密接した花だということが伺えますよね。

ボタンの名前の由来

ボタンの和名は中国の名である「牡丹」をそのまま使ったものです。
ですので、中国流の読み方として「牡」は「ボウ」と発音する為、当時は「ボウタン」と呼ばれていました。
今でも俳句や短歌の世界で「ボウタン」は健在です。

英名は「Tree peony(ツリーピオニー)」です。同じボタン科でボタンと間違われることも多いシャクヤクは「Chinese peony(チャイニーズピオニー)」で正式にはちゃんと区別されていますが、日常的な場面では「ピオニー」の総称で呼ばれることが多いです。

では、何故「ピオニー」とついたのでしょうか?2つの有力な説があります。

1つは、ギリシャ神話に出てくる、医薬を司る神ペオン(Paeon)から由来しているという説。

ペオンは、オリンポスの山へ不思議な力をもつ植物を求めて行くことにしました。
オリンポスに到着すると、全知全能の神ゼウスの子を身籠った女神に出会い、その植物の根が陣痛を和らげることを教わります。

ペオンは、その後冥界の王ハデスが戦いで追った傷をその薬草で治してあげます。
他の神々も同じように治療しますが、ペオンは師である医神より優れた存在になってしまったことで、師に嫉妬されてしまいます。

その後、ペオンは師に殺され、恩人の死を悲しむハデスによってその薬草に変えられたとする話と、殺されそうになったところをゼウスによって美しい花に変えられた話と結末は2つに分かれます。

もう1つは、こちらもギリシャ神話に出てくる美しい妖精パエオニア(Paeonia)が元になったという説です。

妖精パエオニアは誰もが振り返る美貌で、男性たちを虜にしていましたが、なかでもオリンポス十二神の1人であるアポロンにも可愛がられていたことが美の女神アフロディテの機嫌を損ね、姿を花に変えられてしまったというお話です。

2つ共に、ペオンやパエオニアが生まれ変わった花として、ボタン科の植物に「ピオニー」とつけられたそうです。

違うお話ではありますが、ボタンは薬草としても用いられていたので、医薬を司る神であったペオンに通じるところがありますし、美しい妖精であるパエオニアは美しいボタンの花をイメージできますよね。

ボタンの花言葉

ボタンの花言葉は「王者の風格」です。

その存在感は正にイメージピッタリですよね。
他にも、「風格あるふるまい」、「富貴」、「高貴」、「壮麗」などがあります。

どれも、優雅で艶やかなボタンの花が皇族たちに愛されていたことに因んでいるのでしょう。

明治30年にシャクヤクの台木を用いて接ぎ木する方法が確立する以前は、ボタンの苗木はかなり高価で上流階級や富裕層しか楽しめませんでした。
「富貴」や「高貴」といった花言葉の背景にはこうした園芸事情もあるのでしょう。

ボタンの西洋での花言葉は「思いやり」、「恥じらい、はにかみ」です。

「恥じらい、はにかみ」は、花の中央を隠すようなボタンの咲き方が恥ずかしがっているように見えたものが由来しているようです。東洋と西洋ではずいぶん印象が違うようですね。

ちなみに、ボタンには花の色ごとの花言葉はありません。赤、赤紫、紫、薄紅、黄色、白とカラーバリエーションも豊富ですが、どれも同じ花言葉です。

見上げれば美しい花のシャンデリア【藤(フジ)】

庭園や公園で見事な藤棚を見上げたことはありますか?
春になると薄紫や白い花が藤棚に咲くと下に行って見上げたくなりますよね。

藤はマメ科フジ属のつる性落葉樹です。
マメ科ということで天ぷらにしても美しく美味しいそうです。

つるは木に巻き付いて登り、樹冠に広がります。直射日光の指す場所を好む好日性植物。
花序は長くしだれてシャンデリアのよう。20㎝~80㎝にも達するほどです。

薄紫の花色は藤色の名のもとになったことでも知られています。
他のマメ科同様に夜間は葉を小さくさせます。

日本の藤には2系統の種類があります。

1つはノダフジ。フジの名所である大阪市福島区野田の地名からとったもので、本州を中心に自生しています。つるが右巻きの品種です。

2つ目はヤマフジ。近畿以西に自生している品種でつるが左巻きなのが特徴です。

つるが右巻きか左巻きで系統が分かれるなんて知りませんでしたよね。
旅行に行ったら確認したくなります。

女性らしさの象徴

藤の花は垂れ下がりながら咲くという特徴があります。

また、香りも強く、たおやかに咲くその姿が、女性そのものや着物の振袖をイメージさせることから、藤は女性の象徴ともされてきました。

古くから存在する花なので、7世紀~8世紀ころに書かれた「万葉集」にも藤のことを歌った歌が数多く掲載されているだけではなく、着物の柄や絵画、小説や和歌など文学作品の中にも登場の多い花です。

女性らしい藤に対して力強い印象の松は男性らしい樹木とされてきました。
日本画や古典文学では藤と松を共に描いた作品も多く存在します。
下村観山の屏風絵『老松白藤』は松と藤の対比を見事に描いた作品です。

縁起がいいのか?悪いのか?

藤は読み方の響きが似ている「不死」とも聞こえることから縁起の良い花とされてきました。

「藤の花を松と隣り合わせに植えると子宝に恵まれる」
「つるが長く伸びるので家運隆盛」
「寿命が長い木」
などといった縁起の良い言い伝えも多く残っています。

しかし、一方で縁起の悪い言い伝えや考え方もあります。
「庭木の藤が他の木に巻き付くと家庭内不和が起きる、盗難にあう」
「不治の病」を連想させるので縁起が悪い。
「垂れ下がる花の形が家の運を下げる」
などです。

一体どっちを信じたらいいのか分からなくなりますが、日本人には加藤さん、伊藤さん、のように「藤」の字が苗字に付く名前が多くあります。

これは、平安時代に繁栄を見せた藤原氏の影響です。

藤原氏の一族は全国に広がり、加賀の国の藤原氏は加藤、伊勢の国の藤原氏は伊藤といったように藤原氏の「藤」と、地盤となった国の名から1文字をとって家名にしました。

また、明治になると苗字が義務づけられ、名門の藤原氏にあやかろうと縁のない人も「藤」の字が入った苗字を名乗るようになったようです。

果たして、縁起の悪い字を苗字に使うでしょうか?

真相は分かりませんが、美しい花ですし縁起がいい花だと考えた方が藤の花を愛でるときもいいですよね。

フジの花言葉

フジの花言葉は「優しさ」、「歓迎」、「決して離れない」、「恋に酔う」です。

フジの花が出てくるこんな“ことわざ”があります。

「下がるほど人が見上げる藤の花」
これは、藤の花が下がるほど、きれいな花だと人が見上げるように人間も頭を下げ謙虚になるほど、周りから立派な人だと敬われるという意味です。

人を謙虚な気持ちでお迎えするおもてなしの気持ちが「歓迎」や「優しさ」に繋がっているようです。

「決して離れない」はつる性の藤の花が、藤棚や木にしっかりと巻き付くその姿からイメージされたと考えられます。

最後に「恋に酔う」という花言葉ですが紫式部の書いた源氏物語にヒントはありそうです。

主人公、光源氏の理想の女性であった藤壺。
紫色の美しい色合いやたおやかに垂れ下がり風にしなやかに揺れるその姿が光源氏の永遠の思い人である藤壺に重なり、「恋に酔う」という花言葉が生まれたようにも思えます。

おわりに

時代は流れ、色々なことが変わりつつあっても昔の人が思う“美しい花”は現代でも人々から愛されている花だということが分かりました。

美しい花は古くから文化や文学に影響を与え生活にも密接していました。

品種改良され、流通の発達によって気軽に楽しめるようになった“美しい花”を花言葉やエピソードを添えて誰かにプレゼントするのはいかがでしょうか?

きっと贈られた方もその花の美しさに魅了され、喜ばれるはずです!