カラタチ(枸橘、枳殻)の花言葉

思い出、温情、泰平、平心に沁みる

カラタチという花をご存知ですか?エピソードや薬効効果をご紹介します!

白い可愛い花とは対照的な鋭い棘を持つ“カラタチ”をご存知ですか?ひょっとすると植物よりも「からたちの花」という北原白秋作詞の童謡の方がなじみ深いかもしれません。思い浮かべることさえ難しい花ですが、色々なエピソードや意外な効果がある樹木なんです。今回は、そんな“カラタチ”について詳しくご紹介します。

“からたち”ってどんな花?

“からたち”はミカン科の低木樹で、4月から5月の葉の出る前に5弁の白い花を咲かせます。白い花は甘いとてもいい香りがします。ミカン科だけあって、花の後には実をつけますが、酸味や苦みが強く食用では好まれません。
葉の周りに細かなギザギザの鋸葉があるだけでなく、枝には5㎝にも及ぶ鋭い棘もあります。そのため防犯目的に垣根として利用されることもあります。また、かんきつ類では最も寒さと病気に強いことで知られ、その強さからミカンの台木として使われています。
中国が原産地とされ、“からたち”という和名は唐の国から来た橘“唐橘”から名がついたとされています。別名は“枳殻(キコク)”、“枳”は1文字でもカラタチと読めて、小さな果実の木が語源です。同じように1文字で“からたち”と読める字が“枸”です。この漢字は棘のある枝を表しています。カラタチを漢字で書くと“枸橘”。どちらもカラタチの形状が語源になっていることが分かります。
日本では8世紀ごろに入ってきました。万葉集にも出てくる植物ですが、いばらの代表格とされ、人を拒絶する存在で、橘に比べ品格の落ちるものとされてきました。
“からたち”の白い花や甘い香りが注目され始めたのは江戸時代です。それ以降は、鑑賞価値が見出されました。しかし、最近では、棘の扱いが難しいことや、他にも棘のある低木樹が多くなっていたことで、なかなか見かけない樹木となってしまいました。

“からたち”が出てくる歌

俳句では「枸橘の花」が春の季語になっているため俳句でも多くの作品が残されていますが、一番有名なのは北原白秋作詞、山田耕筰作曲による童謡「からたちの花」でしょう。
赤い鳥運動を代表する楽曲にもなっていて、文部省唱歌にも採用、日本の歌100選にも選出されています。
作詞は北原白秋ですが、なぜこのような歌詞が書かれたのかには色々な説があります。
1つ目は作曲した山田耕筰の自伝からです。幼いころ養子に出され、働きながら夜学で学んだ耕筰は、工場でつらい目に合うとカラタチの垣根まで逃げ出して泣いたと書かれています。白秋はそんな耕筰の幼少時代の思い出を詩に込めたという説。
次に、白秋が8年余りを過ごした神奈川県小田原市で見たカラタチから出来たという説です。小田原で過ごした白秋の足跡と白秋の童謡論を記した『緑の触角』の《私には私としての幼時の追憶や、小田原水之尾道で見た必然的なからたちの花の縁由がある。「からたちの花」は大正十三年五月十三日の作である。》という一文から小田原で見たカラタチの花が契機で創作されたと考えられています。現在でも白秋が散策したと推察される水之尾道の一部を「からたちの花の小径」として整備しています。
そして、白秋が幼少期から青年期までを過ごした福岡県柳川でも、白秋の母校である矢留尋常小学校の通学路「鬼童小路(おんどこうじ)」には、カラタチが畑の垣根として植えられていたことから、その原風景を思った詩とされています。
北原白秋がどんな思いを込めて「からたちの花」の詩を書いたのか。白秋が作詞に込めた思いを巡らせながらそれぞれの場所を散策するのもいいかもしれません。

“からたち”が出てくる作品

「からたちの花」という北原白秋の若い頃を描いた作品が1954年に映画化されました。
福岡県の柳川が舞台となっていたため、柳川は観光地として有名になりました。柳川を走る観光列車「水都(すいと)」の車両にも白い花を咲かせるカラタチの花がデザインされています。
1958年にはテレビドラマにもなりました。
他にも少女雑誌に掲載された「花物語」がベストセラーになり、大正・昭和の女学生の心を圧倒的に掴んだ作家、吉屋信子が「からたちの花」という小説を発表しました。
この作品も吉屋信子らしい繊細な少女の心情を描いています。本の中には小説の他に、吉屋信子の創作活動を支えた内山基によるエッセイ、「からたちの花の思い出」と演劇評論家である川崎賢子による解説も収録されています。
白く可憐な花に対して、鋭い棘を持つ“からたち”の対比を少女の変わりやすい心情になぞらえたのかもしれません。

“からたち”は薬になる

中国が原産の“からたち”ですが、中国では漢方薬として利用されています。
ミカンの皮を使った“陳皮”は有名ですが、カラタチは果実を利用します。
宋の時代の開宝本草という薬の名を記した本にはすでに収載されており、未熟果実を“枳実”、成熟果実を“枳殻”と称されています。
効能は胃健作用、利尿作用、去淡作用、腹痛、腹部の満腹感を和らげるとされていて、“枳実”と“枳殻”の作用は同じですが、“枳殻”は“枳実”より作用は穏和とされています。
乾燥させた果実を刻んで、煎じ、煎じた汁を食前や食後に服用します。
満腹感を和らげる効果を試してみたいところですが、くれぐれも体質や体調に合わない場合もあるのでご注意ください。乾燥が不十分でも嘔吐につながるようです。

“からたち”の利用法

カラタチの実の中は種だらけで、味はとても酸っぱく、少し苦いのでそのままでは到底食べることが出来ません。しかし、ジャムや砂糖漬け、ポン酢やカラタチ酒にするなど、酸味を生かして召し上がる方もいるようです。
そこまでして食べるのはちょっと、、、という方は、乾燥した果実か生の果実、葉茎を刻んで布の袋で煮出してから汁ごとお風呂に入れると慢性関節リュウマチ、椎間板ヘルニア、五十肩、痛風、腰痛、打撲、発汗、冷え性などに良いそうです。カラタチのさわやかな芳香が体を温めて血液の循環を促進する効果が得られます。
また、 “枳実”や “枳殻”を細かく刻んで、エチルアルコールに浸けて1週間。数回振ってから、かくはんして、ろ過したものにリスリンを加え、使用するときに水で薄めると化粧水として使えます。
その他にも、熱いお湯に患部を数分間浸してから熟した実や生葉の汁を湿布してよくマッサージをすると、しもやけにいいそうです。

近年、注目される“からたち”

近年の研究で、“からたち”にはカンキツトリステザウイルスという、ミカン属の植物に感染し、全世界で多大な農業被害を与えているウイルスに対して免疫性を持つ機能性成分であるオーラプテンを高濃度に含有することが明らかになりました。
オーラプテンには色々な予防効果があり、げっ歯類においては肝がん、皮膚がん、舌がん、食道がん、大腸がんに対して科学的予防剤になることが多くの研究で明らかにされています。
ヒトに対する効果はまだ不明ですが、発がん抑制作用の他にも、抗淡症作用、脂質代謝改善効果などの効果が期待されています。
また、鋭い棘が理由で最近見かけなくなったカラタチですが、意外なところでも注目されています。
それは、害獣被害に悩む農家の方々からです。鋭い棘は天然の有刺鉄線。作物を囲むように垣根として植樹したり、刈り込んだ枝をイノシシの獣道に置くなどして被害を抑えようとしています。
ちなみに、果樹研究所で25年ほど前にオレンジとカラタチを細胞融合させ雑種「オレタチ」を生み出しました。そして、カラタチのがんの抑制に効果があるとされる機能性成分(オーラプテン)を生かしつつ、苦い、酸っぱいといった食用に適さない部分をオレンジでカバーし、生で食べられる品種となったのが「オーラスター」です。
オレンジよりも皮が厚く実が少ないように感じますが、体に良い成分には期待したいものです。
平成23年に登録され、なかなかスーパーではお目にかからないかもしれませんが、出会えば一度ご賞味ください。

おわりに

カラタチには意外な効果やエピソードがあることが分かりました。最近見かけないと聞くと見たくなりますよね。垣根や樹木を販売するホームセンターなどに行った時には是非とも注目したいものです。ガン抑制作用についてはこれから注目度もさらに高まるかもしれません。話題に上がった時に「知っているよ」とドヤ顔をするためにも覚えておけたらいいですよね。