2019年5月6日に国連は世界に向けて「100万種の生物が絶滅の危機に直面している」と警告ともいえる報告書を発表しました。その中には動物も含まれていますが、植物も例外ではありません。年々絶滅危惧種が増える傾向にある中で、世界中には、今もひっそりと姿を消していく花があります。今回はそんな絶滅の危機に瀕している、滅多に見ることのできない“希少な花”に注目。その花の名前の由来や花言葉などを織り交ぜながら数種類の花をご紹介します。花の中には野生では見ることが難しくても、挿し木や交配などにより販売がされていたり、植物園で見たりすることが出来たりする花もあるので、栽培するきっかけにも出来ますし、植物園に出掛ける前に見る見ればきっと楽しみも倍増しますよ!
魅惑の翡翠色【ヒスイカズラ】
ヒスイカズラはフィリピン原産のマメ科のつる性植物です。
野生のヒスイカズラは限られた地域の熱帯雨林にしか生育しておらず、藤の花のように垂れ下がる花房は50~100㎝ぐらいと大型。
1つ1つの花は6~8センチの熊の爪のような形をしていて、翡翠のような青緑色をしています。
開花時期は3~5月ですが、開花は数日で、咲き終わると花はすぐに落下。
葉は3つに分かれている3出複葉で、楕円形で先が尖っていて、革のような質感です。
受粉はコウモリが媒介することもあり、日本ではほとんど結実することは困難とされています。絶滅が危惧されているレッドリストにも登録済の、正真正銘“希少な花”です。
ヒスイカズラの名前の由来
ヒスイカズラの英名は「ジェード・バイン」。ジェードは翡翠、バインはつるという意味です。
和名も同じように、花の色が宝石の翡翠のように見えることからこの名前がつきました。
花には色んな色見の花がありますが、このように見事なエメラルドグリーンの花は珍しいでしょう。宝石に例えたのも納得です。
ヒスイカズラの花言葉
ヒスイカズラの花言葉は「私を忘れないで」です。
理由は定かではありませんが、ヒスイカズラは花が散った後にすぐに色が変わってしまうようです。そんな性質から生まれた花言葉かもしれませんね。それにしてもこの翡翠色はとても
印象的です。ちなみに、ヒスイカズラを検索すると「初音ミク」と出てくることがあります。
初音ミクのあの髪色とヒスイカズラの花の色が似ていることに由来しているそうです。
初音ミクを見たらヒスイカズラの花も忘れず思い出してあげてくださいね。
ヒスイカズラを育ててみる
天然のヒスイカズラは絶滅危惧種ですが、種は購入することが困難に対して、苗ならば購入することが可能です。
インターネットで購入することが出来、価格は1株1000円~5000円ぐらい。
しかし、熱帯季節風気候に育つヒスイカズラの栽培はなかなか大変です。
まず、当然のことながら寒さには弱く、耐寒性は10℃と言われています。激しい温度変化を好まないのも特徴です。土壌は肥沃で水はけが良ければ大丈夫です。肥料は効果がゆっくりあらわれるような緩効性肥料を選び、6~8月頃に月1回のペースで与えます。それ以外の月は2カ月に1回ほど追肥します。乾燥には弱いので土が乾き始めたらたっぷりと水を与えましょう。
こう見ると育てることが出来そうに思うヒスイカズラですが、受粉させることは至難の業です。コウモリが受粉する天然のヒスイカズラに対し、人工で受粉してもなかなか成功率は低いです。そのため、植物園でも人工受粉ではなく挿し木で増やしているようです。
月に愛された香り良き白い花【月下美人】
月下美人の原産地はメキシコの熱帯雨林。サボテン科の多肉植物です。
自生地では老木の幹や朽ちた木、腐葉土の上などに根を張り育ちます。
日本では交配種が多く流通していますが、野生の月下美人は絶滅のおそれがあるリストに
入っている希少な花。
波を打つようにうねる昆布に似た葉状の茎は1~2mになると蕾が出来始めます。
夜に咲き始めた花は翌朝までの一晩ですぐにしぼんでしまい、めしべに受粉が起きなければ散ってしまう儚い花です。
花は20~25㎝と大きく、白くてとても香りが強いことも特徴です。
初期では垂れ下がっている蕾も開花直前には自然に上を向いて膨らみ、
夕方にはその香を漂わせ始めます。
そのため、コウモリなどの小型哺乳類の訪花にも耐える強度を持っていて、
花粉や花の蜜も通常の虫媒花よりも多い花です。
月下美人の香りはジャスミンに似た柔らかい香りで、「優雅で心地よい香り」、「上品な香り」と表現されます。
香りが強いのは、月下美人が一晩でしぼんでしまうことが作用していると言われています。
夕方から香りを放ち、香りがピークを迎えるのは満開になる20時ごろ。
その後2~3時間が1番の見頃ですが、暗闇で目立つ白い花と強力な香りでコウモリを引き寄せるのです。そして、日が昇る頃には花の美しさも香りも失われてしまいます。
夜に咲く理由は他にライバルが少ないからという利点もあるようです。
日本では6月~11月に咲き、上手く株が育てば2~3カ月後にはもう1度楽しむことが出来ます。
月下美人を取り巻く迷信
夜に咲くことや名前も魅力的な月下美人には多くの言い伝えや俗説があります。
例えば、「満月の夜にしか咲かない」という迷信です。
確かに月下美人は夜に咲く花ですが、野生の月下美人はコウモリが受粉を行います。
コウモリは親切で受粉をしているのではなく、花粉や花蜜を食べに来るため、
月齢に合わせて受粉を行ったりはしません。
そのため、満月などの月の満ち欠けは月下美人には無関係です。
また、「1年に1度しか咲かない」という言い伝えもあります。
野生下では難しい開花も、きちんと栽培をし、花を咲かせるための栄養素や体力が蓄積されれば年間に2回は咲くことが出来ます。
他にも、「同一株から分かれた月下美人は同じ日に咲く」という迷信も囁かれていますが、
例え同じクローン株から生まれた花でも、体内時計による長期同調性は確認されていません。あくまでも株に置かれた環境に影響されて開花します。
ちなみに、日本にはここ20年で多くの遺伝子が異なるクローンが流通しているので、そもそも日本にあるとはいえ同じ株が由来ではないのです。
このように、いくつかの迷信がある月下美人ですが、間違いが多いことが分かりますよね。
月下美人の花言葉
月下美人という和名は、まだ皇太子殿下であった昭和天皇が台湾を訪問した際に、
この花の美しさに目を奪われ、駐在大使に花の名前を尋ねました。
その時に「月下の美人です」と大使が答えたことからこの名がつけられました。
英語でも「夜の女王」と呼ばれています。
そんな、月下美人の花言葉は「儚い美」、「儚い恋」、「秘めた情熱」、「強い意志」です。
“儚い”と花言葉につけられる理由は、花の寿命が1日と短命であることからです。
「美人薄命」の語源にもなったとされています。
また、「秘めた情熱」や「強い意志」は、通常日中の2~3日に花を咲かせるクジャクサボテン属の種類に対して、夜に花を咲かせる月下美人。
他とは異なる咲き方に、強い意志や情熱を感じます。
月下美人を食べてみる
以前に日本に流通していた月下美人は原産地から輸入された株を挿し木や株分けで増やしたクローン種だったので、人工授粉をしても果実が実ることはありませんでした。
しかし、1980年代に東京農業大学で研究グループが原産地から野生の別の種を持ち帰り、繁殖、普及させたことで人工授粉により容易に成熟した果実を手に入れることが出来るようになりました。
果実は葉面が赤く、内部の果肉は白色で黒いゴマ状の種子が散在。
見た目はドラゴンフルーツに似ていてひと回り小さくサクサクして甘いフルーツです。
花や実は薬用としての効果も古くから期待されていて、咳、喘息、肺炎などの呼吸器系の
トラブルや高血圧、体脂肪の改善に有効です。台湾ではスープの具として薬膳料理の具材に使われます。
他にも花は、湯がいて三杯酢の和え物や天ぷらにすると美味しく食べられます。
咲いている時は焼酎に浸けて保存すると見栄えもします。
最近では、家庭用果樹として「食用月下美人」が販売されています。
悪魔の名前を持つ花【クロバナタシロイモ】
クロバナタシロイモを見ても「なんて美しい花!」と言う人は少ないかもしれません。
黒い花に長いヒゲが沢山生えているような花は「怖い」という感じる方もいるでしょう。
クロバナタシロイモはタシロイモ科タシロイモ属の多年草です。草丈は70㎝~1mほど。
葉は濃い緑色でサトイモに似ています。長い茎の先に大きな苞を数枚~10枚ほどつけて、
その中に散形に星形の花を多数つけます。
花自体は3~5㎝の花柄で、6枚の花被片から出来ています。
ヒゲのように見えるのは苞で、花のつかない花柄とも言われています。
開花時には垂れ下がり、花色は一見黒色に見えますが実は濃紫色です。
開花期は7~10月ですが、暖地では周年開花します。
原産地はタイやマレーシアですが、絶滅危惧種になっていて滅多にお目にかかることは
出来ません。
見た目は怖い花で、生芋は苦くて有毒なのでそのまま食すことは出来ませんが
地下茎はデンプンを採るために食用にされることもあります。
自生している現地では若葉と花もカレー料理に用いられるようです。
他にも腸炎や肝炎の薬に利用されたり、新しい化学物質が発見されたりと
注目されつつある植物です。
クロバナタシロイモの名前の由来
クロバナタシロイモの和名は黒い花のタシロイモという意味です。
漢字で書くと「黒花田代芋」と書きます。
一般的なタシロイモの花は緑色なので、黒色に見えるこの花には黒花とつけ、
タシロイモの名は、タシロイモを台湾から日本に初めて紹介した、植物学者の田代安定氏にちなんだものです。
黒い花やヒゲ状のものが黒猫やコウモリを連想させるため、流通名でブラックキャット、
タッカ、またはバットフラワー、デビルフラワーなどと呼ばれ、観賞用にも栽培されています。
名前はどれもハロウィンに似合いそうな名前ばかりが付いています。
クロバナタシロイモの花言葉
クロバナタシロイモの花言葉は「孤独な主張」です。
南国の熱帯雨林にひっそりと咲くこの花が、「私を見て」と言わんばかりに何かを主張している姿が目に浮かびます。野生のクロバナタシロイモはなかなか見ることが出来ませんが、
観賞用として販売されていますし、植物園でも見ることも出来るので、
クロバナタシロイモの孤独な主張を是非とも聞きに行ってくださいね。
山野に舞い降りた可憐な白鷺【サギソウ】
サギソウは、ラン科の多年草の一種です。山野の日当たりの良い湿地に生え、
高さは15~40㎝ほど。地中に楕円形の球茎があり、細い地下葡枝を出してその先に新しい球茎を作っていきます。
花期は7~8月。花は1つに1個~4個ほどつき、蕚片は緑色で長さ3~4㎝で垂れ下がります。花の色は白色で直径約3㎝。深く3列に分かれた辰弁の淵は細かく裂けていて、
花が開くとまるで白鷺が大きく翼を広げて降り立ったように見えるのでその名がつきました。英名も「白鷺の花」と呼ばれています。
花粉媒介ですが、長い距に見合った長さの口吻を持つセスジスズメやスズメガなどの蛾を
中心とした昆虫が飛来し吸蜜します。スズメガ科の蛾は飛翔力が優れていてかなりの長距離を移動するので山間に点在する湿地でもサギソウは生育できるのです。
サギソウは山野草として観賞用に栽培されますが自生のサギソウはなかなか見ることが出来ません。台湾、朝鮮半島、日本に分布していますが、生育環境が低地の湿地と限定されるため日本では環境省により準絶滅危惧種の指定を受けています。これは、ゴルフ場や宅地の開発による湿地の消滅、栽培目的や興味本位の採取、温暖化に伴う湿地の乾燥化など多くの理由で個体数が減少したと考えられています。
各地で愛される花・サギソウ
サギソウは全国数多くの自治体から指定を受けています。指定を受けるだけではなく、
例えば愛媛県の今治市では「蛇池のササギソウ」がえひめ自然百選の1つに選定されていますし、同じく愛媛県の宇和島市にある津島町の「サギソウ自生地」は1968年(昭和43年)3月8日に県の天然記念物の指定を受けました。
他にも全国で数多くの自治体がサギソウを自治体の花に指定しています。
切手のデザインにされたこともあり、人々から愛される花だということが伺えます。
サギソウの花言葉
サギソウの花言葉は「清純」、「繊細」、「夢でもあなたを想う」です。
「清純」や「繊細」はサギソウの可憐な花の容姿からイメージされたと思われます。
水辺にひっそりと咲く白い花は「清純」なイメージそのものですし、細かい切れ込みが入った花弁はレースの様でとても「繊細」です。
そして、「夢でもあなたを想う」という花言葉は、東京都の世田谷区で語り継がれる昔話に
因んでいると思われます。
昔、吉良頼康公の側室であった常盤姫(ときわひめ)は悪い噂話の為に追放されそうになってしまいます。常盤姫は身重でしたが逃亡を試み、自害して身の潔白を証明しようとしました。その際、飼っていた白鷺の足に遺言書をくくりつけ飛ばします。
しかし、白鷺は途中で飛び続けたために力尽きたか、はたまた鷹狩りの鷹や弓矢に居抜かれたのか、死んでしまいます。その常盤姫の無念を受けた白鷺の亡骸が多摩川のほとりでサギソウになったという昔話です。
現在、世田谷区にはサギソウの自生地は残っていませんが、昭和43年に世田谷区の区の花にサギソウが指定され、夏にはサギソウの鉢植えも販売される「サギソウ祭り」というイベントが開催されます。世田谷区民には古くから愛された、馴染みのある花なのかもしれません。
おわりに
今回ご紹介した“希少な花”の中で、1度見て見たいと思った花はあったでしょうか?
意外なことに絶滅危惧種に指定されていても、交配種が出来ていたり、挿し木で増やされていたりと販売されている花がほとんどでした。
このような“希少な花”を見て見たいだけではなく、育ててみたいと思う方が多くいらっしゃるからでしょう。
しかしながら、どの花も野生の花は少なくなってきています。
もちろん否めない環境の変化による影響も考えられますが、「お土産用」や「興味本位」で
乱獲された結果、個体数が減少した花も多くあるようです。
美しい花々をいつまでも見ることが出来るようにこれからも大切にしていきたいですよね。
他にも“希少な花”は沢山あるので、興味がある方は見ることも種の保存に繋がります。
近くの植物園などに足を運んではいかがでしょうか?
また、花言葉を使ってまだ知らない方へ教えてあげてください。